再生医療とは
再生医療とは、病気やけがで失った組織もしくは機能を、再生して取り戻すことを目的とする医療です。本来人間が備える自然治癒能力を高めたり、細胞を培養して組織を作成し移植したりなど、幅広い医療分野にて様々な方法が世界中で研究されています。
再生医療の研究が進む整形外科疾患
整形外科の中でも、特に関節疾患の治療法として再生医療は注目されています。
人間がそもそも持つ再生機能の自然治癒力は、血液が大きく関係しています。そのため血流がほとんどない関節内では、組織が損傷しても自然な治癒効果が得られません。それを再生医療技術で補おうというわけです。
<変形性膝関節症>
変形性膝関節症は日本国内でおよそ1,000万人、潜在的なケースも含めると3,000万人もが患っていると言われる[1]、膝の代表的な疾患です。これだけの患者数が推定される理由としては、原因がひとつではなく危険因子が複数に及び対策を講じても予防しきれないこと、自己再生がほとんど望めない軟骨のすり減りを発端とするため、一度発症すると根治が困難であることなどがあげられます。また、放置するとどんどん進行してしまい、最初は膝の違和感や軽度の痛みだったのが、慢性的に強い痛みを覚えるようになり、日常生活に支障をきたすようになったり、歩行が困難で車いすが必要になるケースもあります。
>詳しくは「変形性膝関節症」ページをご覧ください。
この疾患に対し、炎症を抑え痛みを軽減したり、軟骨修復の作用が期待できる細胞を投与する「幹細胞治療」や「PRP療法」、正常な軟骨から細胞を採取し培養してから移植する「自己細胞シート」による軟骨再生治療[2]が研究されています。
<膝関節軟骨損傷>
事故やスポーツのけがなどにより、軟骨が損傷してしまう疾患にも、再生医療は役立っています。例えば、外傷性軟骨欠損症があげられます。また、成長期に軟骨がはがれてしまう離断性骨軟骨炎なども再生医療が行われている疾患です。具体的には、正常など軟骨細胞から自家培養軟骨を作製して欠損部に移植する「自家培養軟骨移植術」が有名で、すでに保険適用(適用条件あり)の治療となっています。
また、膝関節軟骨損傷に対してはiPS細胞から軟骨を作製し移植するという再生医療[3]も研究されています。
身近になっている再生医療
再生医療は大学や専門の施設で研究されているもので、実際に受けられるのは限られた人と思われるかもしれませんが、実はここ数年で実用化が進み、一般的にも普及が広がっています。メジャーリーガーの田中投手や大谷投手が肘の靭帯損傷の治療を受けたというニュースは大きく報じられましたし、その後は海外だけでなく、日本のアスリートも再生医療を治療法として選択することが増えたように感じます。
また、当院のように自由診療で提供する医療機関も増え、スポーツを趣味とされている方から、日常生活にお困りの方まで、幅広い患者さまが再生医療を検討できる時代となっています。
膝関節を再生医療で治療する理由
当院が変形性膝関節症を中心に、再生医療を始めとする先進的な治療法をご提供しています。理由は、保険診療で手術を希望されない患者さまを多く見てきたことにあります。
変形性膝関節症の診療では、鎮痛剤の内服やヒアルロン酸注射の保存療法が第一選択です。生活指導や運動療法なども併せて積極的に行ってきましたが、そういった治療で完治は望めないため、進行してしまうとどうしても手術の選択になります。ただ、人工膝関節の手術は大がかりなため、リスクや術後の生活、また効果が本当に得られるかという部分での不安から躊躇される方が少なくありませんでした。
そういった方々にも痛みに対して前向きな治療を検討いただけるよう、痛みだけでなく、関節機能の改善や変形性膝関節症の進行抑制が期待できる再生医療をご提供しています。患者さまのQOL(生活の質)が向上させることに、ベストを尽くしたいと考えているからです。
変形性膝関節症に実用化されている治療法
自由診療では、幹細胞を用いた治療と、血液の修復作用を用いた治療が、再生医療による治療法として普及しています。当グループでも2015年の開院から、こうした治療法を継続してご提供しています。
①幹細胞治療
幹細胞とは、筋細胞や軟骨細胞などの特定の体細胞とは異なり、そうした細胞に分化(変化)する能力を持った細胞です。変形性膝関節症に対する治療法として色々な幹細胞で研究が進んでいますが、現在提供されている治療に用いられているのは、低侵襲にたくさん確保可能な、脂肪組織の幹細胞です。
<幹細胞の種類>
脂肪幹細胞 | 造血幹細胞 | ES細胞 | iPS細胞 |
脂肪組織に存在する | 骨髄組織に存在する | 受精卵から採取 | 体細胞に遺伝子を加え作製 |
軟骨や骨、神経など複数の体細胞に分化可能 | 血球系細胞に分化可能 | あらゆる細胞に分化可能 | あらゆる細胞に分化可能 |
現在提供されている脂肪の幹細胞治療では、患者本人の脂肪を活用します。治療法としては、脂肪組織から幹細胞群(他の細胞や成分も含む)を抽出して膝関節内に投与する方法と、幹細胞だけを培養してから投与する方法があります。どちらも幹細胞の作用により抗炎症作用や疼痛抑制効果が得られます。また、幹細胞の多分化能によって、ダメージを負った組織の修復が期待できる治療法です。
当グループでは現在、より低侵襲で多くの幹細胞を膝関節に送り込める、培養幹細胞治療を採用しています。
>より低侵襲な理由など、培養幹細胞治療の詳細はこちらにまとめています。
②PRP療法
血液に含まれる血小板を濃縮した液体成分「多血小板血漿(Platelet-Rich Plasma)」を注射で投与する治療法です。
切り傷や擦り傷を負ったとき、自然と出血が止まり傷が治っているという自然治癒作用は、血液内の血小板という細胞によるもの。体の組織がダメージを負うと、血小板から成長因子という修復を促す物質が分泌され、体を元の状態に戻そうというメカニズムが発動するのです。
整形外科領域でもこの作用を生かしたPRP療法は広がっていて、靭帯損傷や腱炎、肉離れといったスポーツでのケガで選択されることは珍しくありません。また、関節内の組織がダメージを負って進行する変形性膝関節症にも有効として、すでに欧米では広く提供されている治療のひとつになります。
PRPを応用した治療法も近年登場していて、当院では血小板から分泌される成長因子を濃縮した、PRP-FD注射という治療法を採用しています。
>PRP-FD注射を採用する理由や治療の詳細はこちらにまとめました。
再生医療の疑問Q&A
手術や入院はしますか?
再生医療の中には、手術が必要な治療法もあります。例えば、軟骨を培養してから移植するような治療法では、正常な軟骨の採取と移植時に膝の手術を行います。また、実用化されている脂肪の幹細胞治療でも、注入は注射で行えますが、原料の脂肪採取は局所麻酔などを用いて行います。ただ、前者が入院を伴う手術なのに対し、後者は低侵襲に行うことができ、日帰りでの処置が可能です。
PRP療法は、採血と注入といった注射処置のみになりますので、手術や入院の必要はありません。
副作用はありますか?
現段階では、基本的に患者さまご自身の組織や細胞を活用する治療法がほとんどです。そのため、薬物療法のような拒絶反応のリスクが少ない治療法と言えます。
ただし、医療なのでリスクがゼロではありません。注射や移植では感染のリスクが伴うため、きちんとした対策の上で行う必要があります。
当院でご提供する治療法で考えられるリスクや注意点については、各施術ページをご覧ください。
手術後でも再生医療は可能ですか?
手術の内容によっては受けることが可能です。
当院の治療法について言えば、膝関節の手術でも靭帯損傷や半月板損傷の手術、また変形性膝関節症の関節鏡手術や骨切り術などは、ご経験があっても再生医療を検討いただけます。人工インプラントに関節を置き換える人工膝関節置換術を受けられている場合は、適応外となりますことご了承ください。
治療が受けられないことはありますか?
副作用のリスクが少ない再生医療ではありますが、下記のような疾患をお持ちの方はリスクの高まりが懸念されるため、当院では適応外とさせていただいております。
・悪性腫瘍
・重度の糖尿病
・感染症
また、膝関節内の変形の具合によっては、再生医療でも改善が得られないことはあります。そのため、当院では必ず適応診断で膝の状態や効果の見込みについて、しっかりインフォームドコンセント行ったうえでご検討いただいております。
<当院での適応診断の流れ>
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1.MRI検査
提携する検査施設にて撮影します(当院と同じビルの1階です)。
検査は片ひざずつの撮影で、片ひざあたり20分ほどとなります。
※MRI画像をお持ちの方は検査不要です。 -
2.医師の診察
名古屋ひざ関節症クリニックに移動いただき、カウンセリングと専門医の診察を行います。
痛み方や痛む位置、痛みが生じた経緯、これまでの治療法、治療してどうなりたいかのご希望などをお伺いします。また、実際に膝を触って状態を診る、徒手検査を行います。 -
3.適応診断
MRI検査と診察結果、患者さまのご希望も踏まえて、再生医療の適正を分かりやすくお伝えします。
適応の場合、どんな治療をどういったプランで行うのが適切かについて、ご提案いたします。
>当院の再生医療の適応診断について詳しくはこちらをご覧ください。
脚注